『パワー・オフ』

    この作品の存在自体は結構前から知っていました。

    井上氏のホラーモードが炸裂して、人間じみた物言いと振る舞いをするウィルスがホラー的に暴れまわる類の代物を予想していたのですが、全然違いました(笑)

     

    実際かなりヤラれました。…そんな風に思っていたのは表紙裏や帯のアオリ文句に冒頭のドリル事件が描かれているせいなんですね..あとは猟奇的な事件は一切起きませんので。はい。この作品はむしろ「生命とは何か」をコンピュータの観点から扱った思弁的な内容を含むものなのかもしれません。

    PC上に創られた(それも研究目的でもなく、比較的卑近な目的のために)人工生命A-Life開発とその”進化”の様子が私達炭素ベースの生命進化とのアナロジーの中で説明されていくその一連のプロセス(説明が呆れる程明快で巧み!)その有様は、J.P.ホーガンの傑作「造物主の掟」冒頭20数ページの凄まじさを思わせ、読んでいて実に快感です。

    その人工生命がひょんなことから稚拙な作りのウィルスを取り込み、本来機能である通信機能をもってnet上へ一気に拡散していくその様は、実にリアルです。

    ドッグイヤー(1年に7年分の進歩を遂げる)と言われるコンピュータを扱っているにも関わらず、10年前に出版されたこの物語から殆ど!読んでいて古さを感じさせないのが、何より凄いことであるなと思います。あとがきにもあるようにCPUやメモリの性能がいくら進歩しても、コンピュータの基礎となる部分に変りはない、ということが読んでいてよく分かります。

     

    地に足のついたコンピュータ小説として単純に様々な雑学を得ることもできるし、これは実際かなりの傑作なのではないかと思います。

    パワーオフを買いたい方はこちら

    似たカテゴリーの投稿